地域で活躍する人や、地域の応援・支援をしていただいている人々をクローズアップ。 山や川の自然を守り、地域を守る人たちを知ると、その地域の文化や風景が見えてきます。

vol.1[2] 尾崎製紙所 片岡あかり さん

仁淀川町で“頑張りゆう人”を伝えたい!応援したい! 地元出身ライターが、仁淀川町の魅力溢れる方々をご紹介。


記念すべき1回目は、仁淀川町の寺村・岩戸地区で紙漉きを生業とする「尾崎製紙所」の4代目・片岡あかりさんにインタビューしました。

 

vol.1[1]尾崎製紙所 片岡あかり さん
清帳紙を“守る”ため
信じた道を突き進む

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「いまは紙漉くときも、その人たちのことを考えて漉けれる、作れるようになった。そしたら紙も変わってくるよね。誰のために漉きゆうがやろって思いがなくなるから良い紙になる」

 

あかりさんの何気に言ったその一言は、特別、紙漉きの世界だけに言えることじゃない。“当事者意識”がこもったこの言葉は、あらゆる分野の仕事にも通じるはず。

このシンプルな言葉はあかりさんの芯の力強さを感じるし、きっとこの思いに心底理解し、気づき、実行するにいたるまで時間が必要だったはずだ。

「ここまでくるのに、ずっと孤独やった。従業員って私だけしかおらんかったき、周りは家族やったきね(笑)、悩みが相談できんがよね。親としたって家族やき仲間が欲しかった。高知市内から研修生がうちに来よったけど、私のような代々やってきちゅう同じ立場の人もおらんかったし、原料づくりっていわば農業なわけで、その大変さや苦しみを共有できんかった。やけね、その当時は自分のことばっかり考えよったし、学生の頃からやりよったバレーボールもしよったし、なんか紙に集中できてなくて」

その後、そんなあかりさんの考えを変える転機がくる。

「22歳のとき、紙の卸売業を営む森木さんという方に誘われて、カナダに行ったがね。うちの清帳紙を版画に使ってくれゆうKenojuak Ashevak(ケノジュアク・アシェバック)というイヌイットのアーティストに会いに。そこでうちの紙がこんな権威ある賞を獲る有名な芸術家さんの作品に使われていることを知って、うちの紙って凄いなって」

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ほかにもこんなエピソードがある。

なぜこんなにも値のはる紙を使ってくれる人がいるのだろう、そんな気持ちにぶつかったときのこと。

「わざわざ香川から足を運んで来てくれたお客さんにその疑問を伝えたら、『モノを買うんじゃなくて人を買うんだよ』って言われたが! カッコイイ言葉やろ!!(笑)。その後、砥部焼の作家さんに出会う機会があって。数ある砥部焼の器のなかで、なんでその作家さんの器を私は買いたいのかな?と思ったとき、その人たちが作りゆうから買うということに気づけた。私らが自然を生かして紙づくりに真摯になって取り組むこの姿をお客さんが見てくれて、買ってくれゆうがやと理解が出来た。そこから紙に対して変わったような気がする」

ここにくるお客さんの繋がりが良い方向へと導いてくれた。その後、26歳の時、自分にも何かできるのではと思いはじめたあかりさん。

「紙漉きの道具作り、原料作りは継承する人がおらんから昔からピンチピンチと言われゆうがね。とにかくうちだけ残ったとしても、生き残れない。土佐和紙全体が盛り上がっていかないと意味がない!と思えてきて、ほんでみんなで協力してやらないかんなと思いだした」

いの町と土佐市の若手紙漉き職人の方たちに声をかけ、日高村で楮の栽培にも取り組みはじめた。

やがて29歳で結婚。その後6年間子育てに励み、2015年4月から完全復帰した。

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「よくね、作った紙を納品した方たちから、お礼の言葉をいただくが。直接お客さんとつながるようになってから、やっとおじいちゃんはこんな気持ちで仕事をしよったんかなとか、子どもができると親の気持ちもわかってきて…。紙漉き業は人に喜んでもらえる仕事やと思う。それに先祖代々、この景色を今まで守ってきたのってすごいなと思えてきた」とあかりさん。寺村地域の清帳紙づくりを受け継ぐ者として、さまざまな想いが去来する。

「変わるってとっても簡単なことやと思う。でも守るのって凄く大変なことで。昔は、機械を導入したら楽になるのに…とか変わることばかり考えよったけど、今では逆に“守る”ことを大切にしてる」

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その“守る”ための活動のひとつとして、2016年6月に、旧寺村小学校の道路を挟んだ真向かいに尾崎製紙所のアンテナショップがオープンする予定だ。

今まで卸業者を通して製品を販売していた尾崎製紙所にとって初の試みとなる直販売所が完成する。

尾崎製紙所の商品で、四国八十八ヶ所のお遍路の旅に欠かすことのできない「納経帳」も評判が高い。

和綴じの製法で2代目の茂さんが昭和52年から作っているこの納経帳の製造を手先が器用であったあかりさんに直伝。いまではすべてあかりさんが手作業で担っており、あかりさん以外にこの納経帳を作れる人はいないという。

表紙は4層紙にして柿渋染めを2回施しており頑丈。清帳紙を使った中面は、寺のお坊さんから筆が走りやすく、しかも乾きが早いと褒められるほど評判が良く、お遍路の間でもこの評判が口コミで広がり、今ではわざわざ尾崎製紙所まで買いにくる方もいるのだとか。

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そんな方たちのためにも、アンテナショップでは、「納経帳・通常サイズ」(横18cm×縦24.5cm)のものと、あかりさんが中学時代にお世話になったバレー部の顧問の頼みで特別に制作したという「納経帳・小サイズ」(横15cm×縦20cm)の2タイプが常時置かれる。その他、清帳紙の切り売りなども販売するのだそう。また販売以外にも、和綴じ本のワークショップなど紙漉きを身近に体感できるコンテンツも予定される。

2階建てのアンテナショップは吹き抜けになる予定で、1階は商品の販売やミーティングルーム、2階は図書館としての機能も果たすキッズルームとなる。

「よくアーティストさんからうちらの紙を使った作品をお礼にって送ってくれるがね。版画とか色々あるがやけど、額に入れてアンテナショップに早く飾りたいなと思って。それとここからの景色がほんとに気持ち良いいが!春になると話題になる「花の里公園」も右下あたりに見えてね。ここの景色を眺めながら大好きな珈琲をはやく飲みたい(笑)」

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あかりさんには、目下取り組まねばならないプロジェクトがある。

楮の増産と、紙料をすくい上げる漉き道具を作る職人の継承問題だ。

とくに清帳紙は、腐りにくいと言われている竹ひごを使わず、昔から継承されているススキの茎を使った茅簀を使用する。このススキの茅簀を作ることができる職人は、現在全国で2人しかいない(しかもその2人は高知県在住!)。

清帳紙を存続させるためにも、漉き道具作りの継承は危急の課題なのだ。

紙づくりに対する熱いバイタリティ溢れるあかりさん。心強い家族や同志とともに、まだまだこれから底力を見せてくれるはず。

今後、このアンテナショップを起点にかける、あかりさんの大勝負が楽しみでならない。

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(写真・文 ながやかなえ)

片岡 あかり [Kataoka Akari]

尾崎製紙所

世界も認める伝統和紙「土佐清帳紙」
その伊吹を受け継ぐ4代目

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